東京地方裁判所 昭和42年(借チ)1053号 決定 1967年12月22日
申立人 池尻千代子
<ほか一名>
相手方 横川志め
右代理人弁護士 岩崎公
主文
本件申立を棄却する。
理由
本件申立の趣旨及び理由の要旨は、
「申立人両名は、別紙目録(一)の土地(本件土地という)を現在相手方から賃借し、右地上に同目録(二)の建物を所有している。ところで、右建物は明治時代に建築され現在では老朽したので、申立人らはこれを取りこわし、木造モルタル塗瓦葺平家建床面積約八九平方米の居宅を建築しようとするものであるが、相手方は右改築を承諾しないので、その承諾に代わる許可の裁判を求める。」というのである。
相手方は、本件借地権は地上建物の朽廃によって消滅していると主張するので、まずこの点について検討する。
本件で取調べた資料によると、申立人らの先代池尻幸次郎は、昭和一八年四月二七日頃相手方先代横川銀蔵から本件土地上の前記建物を買受け、その頃同人から右土地を普通建物所有を目的とし期間三年の定めで賃借したこと、その後右幸次郎及び銀蔵の死亡により、申立人両名が賃借人、相手方が賃貸人の地位をそれぞれ承継し、現在に至っていることを認めることができる。
右事実によると、本件賃貸借の期間は借地法第二条第一項により三〇年とされ、かつ期間満了前においても建物の朽廃によって借地権の消滅を来たすべき関係にあるというべきである。
しかして当事者双方の陳述にたると、本件建物は明治四〇年頃に建築されたものであることが認められ、申立人ら自身の述べるところによっても、もはやそのままでは居住に適しない程度に老朽しているというのであり、検証の結果によると、右建物は外部から一見しても外壁の損傷が甚だしく、戸の開閉もできず打ちつけてあるものが各所に見られ、全体として老朽し、もはや居住に危険なきを保し難い状況にあると見受けられ、構造上の要部について見ると、柱、土台等も損傷、老朽を来たし、建物各部に傾斜、ゆがみを生じ、各所に応急的な補強を施して倒壊の危険に備えていることが認められるのであって、右認定によれば本件建物は借地法第二条第一項にいう朽廃又はこれに極めて近い状態(仮に現在朽廃していないとしても、遅くとも数年を出ずに朽廃に至るとみられる)に達していると考えられる。
以上のとおりとすれば、本件でなされた事実調べの程度で、現在右建物が既に朽廃し、これによって借地権の消滅を来たしていると断ずるのが早計であるとしても、借地権消滅の時期が極めて近いことは動かし難いといわねばならない。
そして、かように極めて近い時期に借地権の消滅が見込まれる場合において、申立人ら主張のような全面改築につき賃貸人の意思に反しその承諾に代わる許可の裁判をするのは相当でないと考えられるので、借地法第八条の二第四項により右の点を考慮し、申立人ら主張の改築が土地の通常の利用上相当であるかどうかにつき審究するまでもなく、本件申立を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 安岡満彦)
<以下省略>